商品を仕入れてから顧客に届けるまでには、実に多くの工程と人手が必要となります。一方、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少傾向にあります。
この現実は、物流業界において大きな課題となっている人手不足に直結するものであり、物流工程における自動化は欠かせない取り組みとなっています。この記事では、物流の自動化をテーマにメリットや、具体的な課題や自動化の手法、自動化を成功させるためのポイントなどを網羅的に解説します。
今、物流業界では、ECサイトの市場拡大などによる物流の需要増と人手不足をきっかけに、自動化に大きな注目が集まっています。
物流業界は、生産人口の減少などを理由に慢性的な人手不足が続いています。また、業界で働く人々の高齢化や人件費の高騰も、自動化が求められる要因となっています。
2024年4月、働き方改革関連法が施行され、トラックドライバーの時間外労働の上限が960時間と定められました。しかし、この法律を遵守するためにドライバーの労働時間が短くなることで、輸送能力が大きく低下するのではとの懸念が広がりました。これを2024年問題と呼びます。この2024年問題も、労働力不足や高齢化への対策として自動化が需要視される大きなきっかけとなりました。
システムを導入し物流業務を自動化することには、大きく分けて以下の2つのメリットがあります。
自動化されたシステムでは、人が行っていた作業をロボットが代行します。人の監視やチェックが必要のない作業については時間の制限なく稼働できるため、生産性や作業効率が向上します。また、システムは常に一定のパフォーマンスで作業できるため、精度の向上も期待できます。
物流業務にはさまざまな工程があり、作業者に対しては一定の研修や教育の期間が必要となります。しかし、人が担う作業をシステムによって自動化できれば、人件費や教育にかかる時間の削減につながり、企業の経営戦略立案などに人材とコストを注入できるようになります。現段階では問題がなくても、将来を見据えて自動化の準備を進めていくことは必要でしょう。
物流には、倉庫における商品の保管や入庫、ピッキング、出庫など、自動化が可能な業務が多数あります。主な自動化システムの種類についてご紹介します。
自動倉庫(Automated storage and retrieval system=AS/RS)とは、商品の保管(棚入れ)や仕分け、ピッキングの作業を自動化した倉庫のことで、倉庫業務の一部ではなく全体を自動化するものです。パレットやコンテナ、ラック単位で商品を保管し、入庫から出荷までを自動化します。
無人搬送ロボットは、倉庫で保管されている商品やラックをロボットが自動で搬送するものです。小型の機械がラックなどの下に入り込んでラックを持ち上げ、複数のロボットを導入してもぶつかることなく移動・搬送します。担当者が倉庫の中を歩き回って商品を取り出す作業がなくなり、運ばれてきたラックの中から必要なものを取り出すだけでピッキングが完了します。
無人搬送ロボットには、あらかじめ決められた走行ルートの上を走るものとAIによる自律走行が可能なものがあり、前者はAGV、後者はAMRと呼ばれます。AGVは走行ルートに障害物があると自動停止し、人によるサポートが必要になりますが、AMRは柱や障害物などを避けながら走行します。
ピッキングの方法には、1つの注文ごとに商品を集めるシングルピッキング(摘み取り方式)と、複数の注文分をまとめて集め、その後個別の注文に合わせて仕分けるトータルピッキング(種まき方式)の2種類があります。注文数が少ない場合はシングルピッキングが適していますが、注文数が多い場合は個別に商品を集めていると間に合わないため、一旦まとめて集めるトータルピッキングが適しています。
仕分けシステムはトータルピッキング後の仕分け作業を効率化するもので、ピッキングした商品のバーコードをスキャンすることにより商品に対応したゲートが開くゲートアソートシステム(GAS)が代表格です。GASがあれば、担当者はバーコードの読み取りと、デジタル表示器によって指定された商品の数量を投入する作業を行うだけで、効率的かつ簡単に仕分け作業が可能になります。
倉庫管理システムは、資材や商品の入出荷管理、在庫管理ができるシステムです。
在庫管理では、今、倉庫のどこに・何が・いくつあるのかを把握し、管理できます。入荷管理では、入荷予定・入荷検品・ロケーション管理・返品による入荷を管理します。出荷管理では、出荷予定・仕分け・ピッキング・出荷検品などを管理し、出荷予定がある商品の有無を確認します。ラベルや伝票を発行して出荷する機能まであります。
WMSは物品自体の移動までは担いませんが、荷物の動きをリアルタイムで把握できるようになるため、ピッキングや検品にかかる手間の削減につながります。販売管理システムと連携できるものもあり、受注の過多や在庫不足による販売機会の損失の抑止にもつながります。
在庫管理システムは、在庫の可視化に特化したシステムです。商品別の在庫が今どのくらいあるかを容易に把握でき、定期的な棚卸しもシステム上で行えるようになります。
また、過去の販売データなどから自動的に需要を予測し、どの商品をどれだけ発注すべきかを算出してくれるため、発注担当者の大きな助けとなります。ハンディスキャナなどによる在庫の登録ができるシステムもあり、在庫を記録する際の人為的なミスを減らす効果もあります。
一方、物流を自動化することに関しては以下のような課題もあります。
物流業務の自動化を進める際には、さまざまなシステムの導入が必要です。しかし、規模の大きなシステムになればなるほど初期投資も大きくなるため、業務内容や規模を踏まえたシステムの設計が重要です。
また、導入後もメンテナンス費用がかかりますし、システムの操作・運用に関する教育コストも必要になることも理解しておきましょう。
システムは、適切なメンテナンスをしていても突発的に障害が発生する場合があります。システム導入時には、障害発生時にスムーズかつスピーディーに対応してくれる業者を選ぶと同時に、システムが復旧するまでの間どのように作業を進めるかも考えておく必要があります。
物流の自動化を進め、作業の効率化やコストの削減を成功させるためには、以下の3つが重要なポイントとなります。
物流の自動化ではさまざまな業務が効率化できますが、自動化前と業務フローが変わるため、担当者へのフォローが必要になります。単にシステムの導入をするということだけだと、現場の担当者は仕事を奪われるような気持ちになってしまうかもしれません。現状どこに課題があるのか、なぜ効率化が必要なのか、その理由や目的を明確にし、現場レベルで共有することが重要です。
物流を自動化すべきとはいっても、すべての現場に必ずしも自動倉庫システムのような大規模なシステムが必要であるとは限りません。倉庫管理システムや仕分けシステムの導入だけで十分かもしれません。倉庫の規模や動線、取り扱う商品に適したソリューションを選ぶことが、自動化の実現に向けた大きな鍵となります。
便利なシステムも、それを使いこなせなければ導入の意味がありません。使い慣れないシステムを効率よく動かすまでには一定の時間もかかるでしょう。
「せっかくシステムを導入したのに操作方法が難しく、結局以前のフローに戻ってしまった」といったことがないよう、導入前の段階から研修などを行い、滞りなく自動化へ移行できるような体制を構築しておくことが重要です。
人手不足やコスト削減を背景に、物流業界でも大きな自動化の波が起きています。一方、システム導入時には初期費用やメンテナンス費がかかる、現場や目的に合ったシステムを選ばなければかえって効率を下げてしまうなどの課題もあります。
重要なのは、自社の取り扱い商品や倉庫規模に合わせたシステムを選択することです。場合によっては物流業務のアウトソーシングも検討するとよいでしょう。
エスプールロジスティクスでは、独自のノウハウをもとに企業様の物流業務の分析・診断を行い、最適なシステムの選択やアウトソーシングのお手伝いをしています。物流業務でお悩み・お困りのことがございましたら、一度エスプールロジスティクスにお問い合わせください。