フルフィルメントサービスの現状

インターネットが普及し、誰もがスマートフォンを持つようになったことから、近年ではさまざまな業界が積極的にECサイトに参入しています。アパレル業界においてもECサイトを活用して自社ブランドを販売する事業者は多く、これから新規参入を検討している方も多いことでしょう。

そこで、本記事ではアパレル業界のフルフィルメントサービスの現状や市場規模、物流における課題、具体的な事例などをご紹介します。

フルフィルメントサービスの現状

フルフィルメントサービスの現状について解説します。

フルフィルメントサービス浸透の背景

今日の小売業界において、ECの新規参入ハードルは格段に低くなりました。
顧客のスマートフォンなど情報端末のインフラが整備され、商品のサプライヤーから見ても、楽天・amazon・Yahoo!などを始めとした「モール型ECサイト」の普及により必要な初期投資が小さくなった事が主な要因です。

一方で日本は、先進国中ではまだまだEC化率が低く、他国が軒並み10%台後半で中には30%を超える国も存在する中で、いまだに一桁の浸透率にとどまっており、今後もインターネット通販には伸び代が
残されている状況です。

しかし、EC参入後の急激な売上拡大に対して自社の対応が追い付かず多くの機会損失も発生しています。
日本全体の問題である人手不足もそこに拍車をかけます。

そんな中、フルフィルメントサービスを提供する企業に、物理的な商品の管理を外注する動きが
拡大してきました。
つまり、ECにおけるビジネスプロセスを「顧客ニーズの創造」「商品サービスの供給」に大別し、後者を切り出すことでインターネット通販やeコマースに発生しがちな課題を解決しようという考えです。

当然ながら、顧客のニーズを掘り起こせなければ市場は生まれません。
ニーズがあっても顧客の目に留まらなければ購入してもらうことは出来ません。

また、一度商品が売れても、商品自体に力がなければリピーターは生まれません。
そして、売れた商品と売れなかった商品の違いを見極められなければ、新たな需要に気づくことは
出来ないでしょう。

すなわち、ネットビジネスにおいてはこれらコア業務の重要性を認識し、いかに注力できるかが成長のカギを握っているという事です。

並行して顧客に商品供給を行う必要が出てきますが、ニーズの創出が上手くいけば上手くいくほど供給に必要な作業工数は増大します。
出荷作業が増えればコア業務が滞り、結果的に売上の頭打ちが起こります。
インターネット通販においては、めまぐるしく変わる状況の中で「顧客ニーズの創造」「商品サービスの供給」という二つの車輪が効率よく回って、はじめて企業の成長という結果に繋げることが出来るのです。

具体的には、「入荷検品」「商品保管」「在庫管理」「受注処理」「ピッキング」「検品」「流通加工」「梱包」「発送」などをまとめて提供するフルフィルメントサービスを利用することで、それら運用オペレーション以外の「商品企画」「媒体出稿」「顧客獲得」「購買分析」などといったコア業務に自社の限られたリソースを集約させることが可能になるというわけです。

以上が、自社で強力な物流のスキームを持たない企業がフルフィルメントサービスを活用する理由です。

ECサイト運営に関する課題

では、ECにおける「課題」とはどのようなものがあるでしょうか。
ここでは前述のフルフィルメントサービスの項目に絞って記述いたします。

初期投資

自社で新たな物流ラインやシステムを構築しようとすれば、それなりのコストがかかります。たとえば、在庫管理に不可欠な在庫管理システムは、初期費用の他に月額費用がかかるため、システムを導入してからもランニングコストの負担が発生します。

また、自社社員を抱えれば雇用リスクとなり、外部から派遣社員などを受け入れれば、割高な人件費が必要になるでしょう。採用活動や人材育成にかかる時間と費用も、スタート期特有のコストとなります。

配送単価

人口減少やドライバーの高齢化などによる人手不足と小口配送便の増加が、ここ最近の配送費上昇の一因となっています。宅配便の取扱個数は年々増え続けており、2019年には43億2,349万個を記録。2020年は大手3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)だけで45億3,000万個に上っており、ドライバーの負担がますます増えているのが現状です。

行政主導の「モーダルシフト」「共同配送推進」も歯止めをかけるまでには至っておらず、この配送費上昇傾向は、今後も継続すると見られています。しかし、自社単独で大きな企業と同等の配送タリフを契約することは非常に困難です。

行政主導の「モーダルシフト」「共同配送推進」も歯止めをかけるまでには至っておらず、この配送費上昇傾向は、今後も継続すると見られています。

人手不足

上記の人手不足は物流業界だけの話ではありません。人件費は上昇を続け、東京都の最低賃金はついに時給1,000円を突破しました。社内の限りある人員をどの業務に振り分けるのか判断を迫られることになるでしょう。

政府は今後も最低賃金の全国的な上昇を目指しており、「平成29年3月28日働き方改革実現会議決定」において、年率3%程度ずつ最低賃金を上昇させながら、全国加重平均で最低賃金が1,000円となることを目標に定めています。

逆に、上記項目は自社で解決する方法を持っていれば、物流の外注を行う必要はありません。

すでにEC運営において、課題解決手法としてフルフィルセンターの活用は一般的な手段として捉えられており、同様のサービスを提供する配送代行企業や物流センターは数多く存在しているのが現状です。

アパレルECの市場規模とは?

アパレル業界の市場規模は、ここ5年程度でほぼ横ばいの状態で推移しているのが現状です。株式会社矢野経済研究所が2020年にまとめた国内アパレル市場に関する調査によれば、2014年に93,785億円だった市場が2019年には91,732億円となっています。紳士服・洋品、婦人服・洋品、ベビー・子供服・洋品のすべての分野で前年に比べて微減しています。

一方、婦人服・洋品の「専門店」とベビー・子供服・洋品の「量販店(GMS)」以外の分野においては、「その他(通販等)」による購入が拡大しているという変化もあります。この結果から、アパレル市場全体は少しずつ縮小していっているものの、通販を利用してアパレル製品を購入する消費者は増えていることがわかります。

アパレル業界における物流に関する課題

ここからは、アパレル業界が物流に関してどのような課題を抱えているのかについて解説します。

商品管理が複雑である

アパレル業界ではさまざまな素材を使用した商品を扱っており、綿、レザー、ウールなど、それぞれの材質に適した複数の保管方法が必要となります。
適切な保管がなされなければ商品の劣化は早まり、場合によっては廃棄しなければならなくなります。また、繊細な素材の場合は配送段階でも細心の注意を払わなければいけません。

さらに、同じ商品において複数のサイズが展開されていることも珍しくありません。
各アイテムが一つひとつ細かく枝分かれしていることが、アパレル業界における商品管理をさらに複雑にしています。

季節により出荷量・保管量が変化する

アパレル業界は他の業界と比べて季節要因による出荷量や保管量の変化が大きく、トレンドに沿った商品展開が重要になります。
トレンドを過ぎると商品が売れなくなり、大幅な値下げや廃棄のリスクが高まります。
そのため、精度の高い需要予測が必要になるのはもちろん、出荷量に合わせて適切な人員を配置しなければならず、シフト管理などの面でも負担が大きくなります。

返品が⽐較的多い

アパレル業界は比較的返品が多い業界です。商品を着用してみたらサイズが合わなかった、帰宅してから着てみたら思っていたイメージと違った、衝動買いしたもののよく考えると着て行く場所がないなど、お客様都合による返品はよくあります。

返品があると、倉庫でも追加対応が発生して業務量が増加します。そのため、お客様の不安を取り除く細やかな接客を心がけるなど、返品をできるだけ減らすための対策が必要となってきます。

コロナ禍による消費者⾏動に変化が?

日本国内においては2020年初頭に始まった新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの消費者が外出自粛を余儀なくされました。これにより、スーパーや百貨店などの実店舗に足を運ぶのではなく、ECサイトを利用してショッピングをする人が増加しました。

今までは家具や家電、アパレル製品、食料品などは実店舗で購入する人が多い商品でしたが、「感染リスクを避けながら買い物をする」という消費者ニーズが高まり、ECサイトから購入する消費者が増えています。

アパレルECを成功させるためには

アパレルECを成功させるためには、「ECサイトのコンセプトを明確にすること」と「適切なターゲットを選定すること」が非常に重要です。

アパレルECでは、ターゲティング広告などを活用することで、自社が取り扱っている商品を必要としているターゲットに対して自社の世界観を的確に伝えることができます。自社のコンセプトをしっかりと理解してもらい、「このブランドの商品が欲しい」とターゲットに感じてもらえれば、リピーターの確保にもつながります。

また、他社との差別化を図ることも安定的な売上には大切です。競合他社と同じような商品を扱っていると「他のサイトでも同じものが購入できる」と消費者に思われてしまいます。そうなると、激しい価格競争に巻き込まれる可能性があります。

競合他社にはない独自性を押し出し、「このブランドの商品だから購入する」という価値を持たせるのがアパレルEC成功のポイントです。

アパレル業界でフルフィルメントサービスを導⼊する時の流れ

アパレル業界における一般的なフルフィルメントサービスの導入の流れは、「ヒアリング→現場視察→見積・提案→作業場見学→契約→業務フロー設計→システム構築→移転作業→稼働開始」となります。その過程についてそれぞれに見てみましょう。

  • ヒアリング
    お客様から現状の課題をヒアリングし、フルフィルメントサービスでどの部分が解決できそうかを明らかにするフェーズです。
    ヒアリングの中で挙がった悩みや課題をもとに、具体的なサービスの選定を行います。
  • 現場視察
    必要に応じてフルフィルメントサービスを提供する業者がお客様の現場を視察します。
    より詳しく現状を把握する上で有効です。
  • 見積・提案
    ヒアリングや現場視察をもとに最適なサービスを選定し、フルフィルメントサービス業者からお客様に見積や提案を行います。
  • 作業場見学
    業者によっては、運用を委託した際の実際の作業場を見学できる場合もあります。運用後の不安を解消する意味でも、見学できる場合は一度立ち寄っておくことをおすすめします。
  • 契約
    見積・提案の内容に問題がなければ、業者と契約を締結します。ここから具体的な稼働に向けた準備が進むことになります。
  • 業務フロー設計
    提案の内容をもとに詳細な業務フローを設計します。
    現在の運用体制やギフト、セット組などを加味したうえで委託後の運用を決定するのが一般的です。
  • システム構築
    運用に利用するWMS(倉庫管理システム)を構築します。
    既に利用中の自社システムを改修しデータ連携することで対応する場合もありますが、フルフィルメントサービス業者が提供しているクラウド型のWMSを契約して利用する形式も増えてきています。
  • 移転作業
    現在の倉庫からフルフィルメントサービス業者の倉庫へ在庫を移転し、運用体制を整える作業です。棚卸を行って移転前と差異がないか確認し、在庫を確定した時点で作業が完了します。
  • 稼働開始
    ここまでのすべての作業が完了したら、フルフィルメントサービスが本格稼働開始となります。

SLGのフルフィルメントサービス事例

SLGのフルフィルメントサービス事例

ここからは実際の案件と共に課題解決の成功事例を見ていきます。

提案事例)携帯アクセサリーEC

携帯雑貨 新規立上 600件

課題

大手インターネットモールおよび自社サイトにて、スマホケース・ストラップなどの携帯アクセサリーを販売している企業様。
モールへの出店以降、3ヶ月で順調に売上が拡大してきました。

しかし、月間出荷件数が600件を越える頃にサイト運営や出荷を担当していた社員1名で対応できる限界に達し、誤配や在庫の点数が合わないなどのミスが頻発。
失敗のリカバリーに時間を取られ、新人育成の時間確保もままならないうちに売上が下降する悪循環に
陥りました。

売上の回復も不透明な中で、雇用リスクを考えると社員の新規採用にも踏み切れず、負のスパイラルを再度上昇気流に乗せるため物流のアウトソーシングを決断しました。

提案内容

在庫や出荷状況の管理に関してクラウド型WMSのリピロボを導入することで、大きな初期投資をせずに在庫数の可視化や、リアルタイムで出荷状況の追跡も行うことができるよう改善。
またデジタルピッキングシステム活用により、人間の判断を必要としない(ヒューマンエラーの起こらない)高品質な出荷作業を提案しました。

効果

ECご担当者様が本業であるSEO対策などサイト運営に注力できたことで、売上の伸びが回復。
商材のSKUを増やし、これまでマンパワー不足により二の足を踏んでいた大手モールの季節セールにも
参加しました。
結果、過去最高の単月売上をセール期間の一週間だけで達成することが出来ました。

提案事例)商材×規模

化粧品 販路拡大 500件

課題

実店舗での販売を中心にコスメやサプリメント等の販売を手がける企業様。
自社製品に対して、アジア圏からも引き合いが増えてきたことからECに新たな販路を求めました。
しかし、これまで関連企業へのBtoB卸以外では出荷作業自体も行ってきた経験がなく、カートと決済システムの連携などのノウハウも不足していました。

対面接客での販売実績から商品には自信がありましたが、自社ECサイトの展開を契機にフルフィルメントセンターの活用を検討するに至りました。

提案内容

商品の特性上、定期購入をされるお客様の割合が多いと判断し、定期購買施策に強いカートシステムと、該当カートと連携の良い「決済後払いシステム」の企業をご紹介しました。

また、化粧品製造業許可の所持を活かしてOEMメーカーからの直接納品を行い、インターネットショッピング用の商品だけでなく、実店舗販売用の商品の流通加工やギフトラッピングなども巻き取りました。
各店舗への配送業務も同一倉庫で行うことで在庫分散を防ぎ、バックヤード業務の負担軽減も併せてご提案
しました。

効果

購入回数や商品の組み合わせによって、同梱するDMやノベルティなどを変更するといった柔軟な定期購買施策の実施が可能になり、これまで対面で培ってきたきめ細やかなアフターフォローをECにも持ち込むことが
できました。

また店舗のバックヤードを圧迫していた在庫を倉庫移管したことで休憩室が広くなりました。
店舗スタッフも、本来担当外の出荷梱包業務から解放され、労働環境も改善されるという副次的な効果も
ありました。

はじめての物販

課題

コンシューマを対象にしたサービス業を展開する企業様。
大手衛生用品製造会社と共同プロダクトで完成した新製品をECで販売することになりました。
しかしECや通販の経験がなく、販売することも商品を届けることもできずに困っておりました。

提案内容

商材に最適な販売方法をご提案し、それに適した販売チャンネルの提案いたしました。
クロスマーケティングが可能な商品のためサブスクリプションでの販売を提案し、最適な物流業務をご提案。
共同プロダクトのためブランディングも重要となるため、専用梱包資材の提案やサンキューレターの同梱で類似製品との差別化を図りました。

効果

専用資材やサンキューレターが商品以外のところで喜ばれ、評価レビューでは梱包状態や荷姿に対する高評価も多数いただいております。
サブスクに最適化した作業フローを構築したことにより、物量把握と在庫管理が最適化され、収益率の向上と事業計画通りに進められてます。

進化するフルフィルメントサービス

分析レポート

エスプールロジスティクスで採用しているWMSから商品購入の分析レポートを抽出することで、「ABC分析」などニーズを紐解く際に最も重要なデータとなる顧客動向を掴むことができます。

また「アソシエーション分析」の材料とすることで、新たな購買施策のヒントとする事も可能です。
もちろんこれらのシステムはすべての企業様に無料でご利用いただく事ができます。

リアルプロモーション

自社製品のブランディングや、商品を多くの消費者に訴求するには、「SEO対策」だけでは限界があります。
特に似たような商材が林立する商材においては、対面販売や店頭キャンペーンなどの「リアルプロモーション」と呼ばれる手法が有効です。

エスプールロジスティクスではセールスプロモーションを得意とするグループ企業との連携により、単純な配送代行やフルフィルメントサービスの枠にとらわれないサービスを提供することが可能です。

海外販路支援

通販業界で流行する「越境EC」についてはどうでしょうか。
以前に比べて、言葉の壁を超えるためのサービスも増え、超大手企業以外でも海外に販路を求めることが可能となってきています。

ただ、リスクが下がってきた一方で、適正なシチュエーションで正しい商品に必要なコストをかけなければ、いかに大きな費用を投下しても見返りは大きくならないという事実は変わりません。
「メイドインジャパンならば売れる」という信仰は過去のもの。
貴社商材の魅力は何なのか、どこにニーズがあるのかを見極める必要があります。

エスプールロジスティクスでは、豊富な越境支援の知見をもとに各国のリサーチからFDA申請、クーリエ選択まで幅広くサポートさせていただきます。

国内物流と越境ECのどちらに対しても同一の倉庫から出荷対応を行うことが可能ですので、ゆくゆく越境ECでの販路拡大を視野に入れている企業様にも安心してお荷物を預けていただけます。

まとめ

フルフィルメントサービスは、どのように選択し、活用するのがよいのでしょうか。

もちろん海外に強力な物流ラインを保有していたり、運営ノウハウや設備がある企業様の場合は、物流を他社に依頼する必要はありません。
BCP対策や横持ちコスト削減といった倉庫を分散するという明確な目的がある場合は別ですが、ただ、そのような物流リソースを有している企業様は稀だと思われます。
そこで自社の不足部分を補い、曲線を鈍化させないために自社に適したフルフィルメントサービスを選択し、活用する必要があるのです。

大切なのは自社の商材を、「どういったターゲット層に」「いつまでに」「どのぐらいの件数販売したいのか」しっかりとした販売計画を立て、それに沿った運営を行うことのできる物流倉庫を選定することが大切です。

せっかくの計画も実現できなくては意味がありません。
単品通販の企業様は、定期購買施策に強い倉庫を。総合通販で小さな商品が多い企業様は、ネコポスやゆうパケットなどの対応が可能かつ競争力のある配送費が提示できる倉庫を、食品を扱うのであれば、冷凍・冷蔵など三温度帯に対応が必要になるかもしれません。

人手不足や総量規制の影響を受けやすい企業様はシェアリング倉庫など物流波動に強い倉庫を選定することが重要でしょう。

貴社の事業計画をエスプールロジスティクスまでお持ちください。パートナー企業とともに最適なご提案をさせていただきます。