気候変動(TCFD)
気候変動への取り組み
TCFD提言に基づく開示
当社グループは、2022年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明しました。ガバナンスを強化するとともに、グループ事業における気候変動が及ぼすリスクと機会を分析することで、情報開示の質と量の充実化に加え、脱炭素への移行に向けた戦略統合を図っています。
ガバナンス
当社グループでは、環境方針に則り、気候変動をはじめとする環境全体の問題に関する基本方針や重要事項を経営戦略と一体的に推進していくため、取締役会による監督とサステナビリティ推進委員会による管理を中心とするガバナンス体制を構築しています。
気候変動管理体制
サステナビリティ推進委員会は、社長室担当取締役を委員長とし、各グループ会社の業務執行役員等で構成しています。気候変動に関するリスクと機会について半期に一度サステナビリティ推進委員会にて協議し、活動の監督を行う取締役会に付議・報告されます。
環境指標の達成度に連動した役員報酬の導入
気候変動をはじめとする世界的な環境課題の重要性を踏まえ、代表取締役会長兼社長の報酬については、気候変動関連の評価項目を含む、各種外部評価機関による当社グループのESG評価に基づき、そのレーティングスコアの状況が報酬評価制度に連動するよう設定しています。最高経営責任者が積極的に再生可能エネルギー導入戦略や気候変動目標に対する進捗状況を把握し、その取り組み状況をモニタリングすることで、企業全体の非財務KPIの達成を促しています。
戦略
シナリオ分析
シナリオ分析実施に際し、サステナビリティ推進委員会において気候変動に関する重要リスク・重要機会の洗い出しと、それらが及ぼす具体的な財務的影響額の評価を行っています。
とくに気候変動による影響を被ると推察される、障がい者雇用支援サービス(エスプールプラス)および、通販発送代行サービス(エスプールロジスティクス)の事業領域を中心に、分析にあたっては2050年までのカーボンニュートラル達成がなされた場合と地球温暖化が最も深刻化する場合の 2つのシナリオを策定し、それぞれのシナリオに基づいた2030年時点での影響を考察しました。
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1.5℃シナリオ世界的な脱炭素化への移行が2050年までのカーボンニュートラル達成水準で進捗し、それに伴う政策規制や市場動向変化が想定されるシナリオ(参考シナリオ)
IEA WEO2021 – SDS / APS / NZE2050
IPCC AR5 - RCP2.6 -
4℃シナリオ脱炭素化への移行は現状の水準以上の取り組みが行われず、地球温暖化がより深刻化し、異常気象災害の激甚化やそれに伴う適応ニーズが拡大することが想定されるシナリオ(参考シナリオ)
IEA WEO2021 – STEPS
IPCC AR5 – RCP8.5
事業へのインパクト評価
シナリオ分析を踏まえた事業への財務的影響については、定性的な分析並びに、試算が可能な項目に関しては数理モデルを定め試算を行い、2030年時点に想定される収益への影響を項目別に評価を実施しています。特定したリスク及び機会は次の表のとおりです。
項目 | 影響 | 評価 ※1 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
大分類 | 中分類 | 小分類 | 時間軸 ※2 | 指標 | 考察 | 4℃ | 1.5℃ |
移 行 リ ス ク |
政策 ・ 規制 |
炭素価格 | 中期 | 支出 |
[全社]
カーボンプライシングの適用による、物流施設・農園・事業所等の 電気・燃料使用等に係るコスト増加 |
小 | 中 |
GHG排出規制 への対応 |
中期 ~ 長期 |
支出 資本 |
[全社]
GHG削減方針が強化され、物流施設・農園などの環境性能向上に係る コスト増加 |
小 | 大 | ||
プラスチック 規制 |
中期 | 支出 |
[エスプールロジスティクス]
プラスチック等の梱包材への規制導入による対応コストの発生 |
小 | 中 | ||
市場 | エネルギー コストの 変化 |
短期 ~ 中期 |
支出 |
[全社]
冷暖房に使用する燃料費の上昇による販管費増加
|
中 | 中 | |
顧客行動変化 | 短期 ~ 中期 |
収益 |
[全社]
顧客企業の環境意識の高まりに伴う、環境負荷の低いサービス・商品へシフト、 対応できない場合の減収 |
小 | 大 | ||
評判 | 投資家の 評判変化 |
中期 ~ 長期 |
収益 支出 |
[全社]
投資家の判断における環境への取り組みの重要度増による、 取り組みが不十分と投資家に判断された場合の 株価下落や資金調達コストの増加 |
中 | 大 | |
物 理 リ ス ク |
急性 | 異常気象の 激甚化 |
短期 ~ 長期 |
収益 支出 資産 |
[全社]
農園や物流拠点の被災に伴う直接被害、営業停止や顧客の被災による 客先の操業停止による減収 |
大 | 中 |
慢性 | 労働・施工条件 悪化 |
短期 ~ 長期 |
収益 支出 |
[エスプールプラス]
ビニールハウス内の温度上昇による労働環境の悪化により、 生産性低下や入職希望者の減少に伴う 採用費の増加 |
大 | 中 | |
機 会 |
エネルギー源 | 再生可能 エネルギーの 活用 |
短期 ~ 中期 |
収益 |
[エスプールロジスティクス]
再生可能エネルギーを活用した差別化されたサービスの提供による売上の増加 |
小 | 中 |
製品/ サービス |
低炭素サービス | 短期 ~ 中期 |
収益 |
[エスプールロジスティクス]
エシカル消費ニーズの拡大に伴う、非プラスチックの梱包材の活用による増収 |
小 | 中 | |
情報開示 | 短期 ~ 中期 |
収益 |
[エスプールブルードットグリーン/エスプール]
情報開示要請の強化拡大による、情報開示コンサルティング事業の需要増加 |
小 | 大 | ||
市場 | 排出権取引 | 短期 ~ 中期 |
収益 |
[エスプールブルードットグリーン/エスプール]
排出権の販売仲介事業による収益の拡大
|
小 | 大 | |
レジリエンス | 異常気象災害への 適応 |
短期 ~ 中期 |
収益 |
[エスプールプラス]
気候変動リスクを低減した屋内型農園の都心部でのサービス提供 機会の増大 |
中 | 小 |
※1 時間軸の考え方:期=1年~3年 中期=3年~10年 長期=10年~
※2 財務影響評価の考え方:大=1億円以上 中=1億円未満 小=影響軽微もしくはなし
移行リスク:低炭素経済への移行に伴い、GHG排出量の大きい金融資産の再評価によりもたらされるリスク
物理リスク:洪水、暴風雨等の気象事象によってもたらされる財物損壊等の直接的インパクト、グローバルサプライチェーンの中断や資源枯渇等の間接的インパクト
財務的影響(小・中・大)の考え方:定量的、定性的に分析し、相対的な影響度を評価しています。
4℃シナリオ:気候変動対策が現状から進展せず、地球平均気温が産業革命期以前と比較して今世紀末ごろに約4℃上昇するとされるシナリオ。異常気象の激甚化や海面上昇など、物理的なリスクが大きくなる一方、企業活動や消費活動に対する締め付けは現行より強化しないとされています。
1.5℃シナリオ:カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが活発化し、地球平均気温が産業革命期以前と比較して、今世紀末ごろに約1.5℃の上昇に抑えられるとするシナリオ。物理的なリスクの高まりは抑制される一方で、税制や法規制という形で企業活動や消費活動に対する締め付けが強まるとされています。
影響規模の評価にあたっては一部定量的な事業インパクトの試算結果を踏まえ、1億円以上の財務インパクトを及ぼすものを重大な影響として定義し、定性的な影響についても同定義のもと評価しています。なお、試算した項目は次の図の通りです。物理リスク(洪水・高潮被害額、営業停止損害額)については災害の発生確率を勘案し、相対的な評価にあたって想定被害額を年平均にならしています。

全社的な影響として、物理リスクでは洪水などの風水災害による被害が挙げられます。特に、被災時には農園や物流拠点で営業停止が発生し、それに伴う損失が財務を圧迫する恐れがあります。また、脱炭素化への移行に伴う影響としては、カーボンプライシング制度の導入により追加的な支出が必要になるほか、エネルギーコストの上昇も懸念されます。特に、グループ全体に共通する主要エネルギーである電力については、気温上昇による空調使用量の増加や、再生可能エネルギーへの移行に伴う電力価格の上昇により、支出の増加が懸念されます。
一方、脱炭素化の進展に伴い、産業界および官公庁においてさまざまな対策が検討されており、行政サービスへの適用拡大や企業の情報開示の進展が見込まれます。こうした動きを受けて、当社が提供する自治体向けの脱炭素支援サービスや、エスプールブルードットグリーンが展開する環境経営支援サービスの需要増加が期待されます。
なお、事業ごとに特定された影響については、以下の通りです。
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障がい者雇用支援サービス
4℃シナリオにおける当該事業は、主として農園操業するにあたり、気温上昇に起因した熱中症リスクの高まりなどの労働環境の悪化や、作物生育に関わる温度管理が困難となり操業停止に見舞われるなどの慢性的な影響が想定されます。対して1.5℃シナリオにおいては、脱炭素化に向けた税制整備やエネルギー価格上昇に伴う操業コストの増加が見込まれる一方で、顧客行動変化や風評意識の変化に対応したサービスの展開により、売り上げ増や企業価値向上の機会があることを確認しています。 -
通販発送代行サービス
4℃シナリオにおける当該事業は、異常気象の激甚化による自社物流倉庫の被災やインフラ破壊の影響により、操業停止やその対策コスト、被災時の損害額が甚大となるなど、物理的リスクが高いことを再確認しています。但し、同事由によりEC利用の拡大をはじめとした顧客行動変化やBCP強化をはじめとした体制強化により、当世界観においても当該事業の社会貢献への可能性を確認しています。対して1.5℃シナリオにおいては、脱炭素化に向けたカーボンプライシングによる操業コスト増が見込まれる一方、梱包材や設備什器の環境性能向上により、企業価値向上の機会があることを確認しています。
これらの分析及び審議結果は経営戦略に統合し、不確実な将来に向けたレジリエンスを高める施策に反映していきます。
具体的な戦略及び取り組み
前述のシナリオ分析結果を踏まえた、当社グループに及ぼす主要な影響に対する取り組みは以下の通りです。
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カーボンプライシング制度をはじめとする移行リスクに対しては、全社的な脱炭素化の推進が挙げられます。2023年11月期以降本社では再生可能エネルギーメニューへの切り替えならびに非化石証書の購入を進めており、2024年11月期のエネルギー使用における再生可能エネルギー由来電力使用割合は約9%となっています。機会獲得に向けては、従来の企業向けのサービスに加え、2023年11月期からは、自治体向けの脱炭素移行支援サービスの提供を開始しています。自治体のGHG排出量の算定や削減を実現するゼロカーボンシティの推進を支援しており、2024年11月期には新たに6市町村とゼロカーボンシティ実現に向けた包括的連携協定を締結し、全国で18件の締結に至っています。
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物理リスクに対しては、洪水など風水災害に拠る被害を想定しており、特にわーくはぴねす農園における物理的影響が懸念されます。そこで、2019年11月期より集中豪雨時や河川氾濫時の浸水区域等を考慮した屋内農園の選定基準の策定を進めるなど、災害の影響を受けにくく、かつ節水型の屋内農園拠点の展開を進めています。2024年11月期において新たに開設した農園7施設のうち、屋内農園は3施設となっています。また、屋外農園に対しても立地の選定の際には集中豪雨時や河川氾濫時の浸水区域等を考慮した土地選定を行っており、風水災害に対するレジリエンス性を高めるとともに、農園で働く方々の安全の確保を図っています。
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気候変動の緩和策として、CO2排出量実質ゼロを目指した環境経営を推進しています。自発的な環境配慮の取り組みとして、2020年より「再エネ100宣言 RE Action」へ参画し、2023年からは主要拠点においてFIT非化石証書を活用した再生可能エネルギーの導入を開始しました。再生可能エネルギーへの順次切り替えを進めるとともに、自動化による省人化にも取り組むことで、CO2排出量の削減を図っています。さらに、カーボンニュートラルの実現に向けた新たな取り組みとして、環境負荷を抑えたゼロ・エミッション倉庫の開設を予定しており、これによりCO2排出量ゼロを目指します。さらに、自動化技術の進展を見据えた先行投資により、持続可能な運営体制の構築も進めています。自然災害による物流の寸断が発生した場合には、社員の安全と荷物の保全を最優先し、配送状況の迅速な共有により影響の最小化を図ります。
また、GHG排出量及びエネルギー使用量の削減や効率改善に向けては、以下の取り組みを行っています。
分類 | 取り組み内容 |
---|---|
緩和 |
[全社]
[エスプール]
|
適応 |
|
リスク管理(プロセス)
気候変動の重要なリスクおよび機会に関しては、サステナビリティ推進委員会にて、その特定と評価を行っています。気候変動関連リスクおよび機会の特定と評価に際しては、前述の「戦略 – 1. シナリオ分析」項目におけるシナリオ分析を通じ、社会情勢や市場環境等の情報を収集・分析して事業に関わる重要課題の早期発見および網羅的なリスクを洗い出し、定性・定量の両面で財務的な影響規模を評価します。最終的にはその評価結果に加え、発生可能性および顕在化時期を加味して、最優先対応課題を選定して、重要課題の中で優先順位を設定しています。
選定された優先課題のうち、リスクとして特定されたものはリスク管理委員会へと集約することで、全社的なリスク管理プロセスへ統合されます。半期ごとに開催するリスク管理委員会にて、気候変動リスクを含む総合的リスク評価のもと、影響が大きいと想定されるリスクについては、必要に応じてサステナビリティ推進委員会と連携を図り、リスクの未然防止と影響緩和のための施策検討を行っています。また、機会として特定された重要課題も同様に、サステナビリティ推進委員会による主管のもとで対応が検討されます。いずれも検討された施策は取締役会による監督のもと、関連する各事業部門や子会社各部門へ展開されます。
指標と目標
GHGの削減については、グループ全体のGHG削減目標として、2021年11月期を基準年度(※)とし、2030年までにScope1+2を40%、50年までにScope1+2のカーボンニュートラルの達成を目指します。
※国内外の動向を踏まえ基準年度を2021年11月期に変更し、削減目標を上方修正しました。
※目標設定範囲は下記のGHG排出量の集計範囲と同一です。
こうした目標達成に向け、具体的には2030年までにグループの事業活動で消費する電力の100%を再生可能エネルギーで調達することに取り組んでいきます。なお、各指標の実績値及び目標の進捗状況についは、ESGデータをご参照ください。
業界団体・イニシアチブ等への参画・賛同
当社グループは、気候変動の取り組みを推進するにあたり、下記の業界団体・イニシアチブに参画・賛同しています。

2022年3月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明しました。今後は、気候変動問題への取り組みを事業戦略へさらに反映するとともに、TCFDの提言に基づく情報開示を進めていきます。

2021年2月に、「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative)」に参加しました。低炭素社会の実現に向け、積極的に取り組みます。

エスプールロジスティクスは、「再エネ100宣言 RE Action」に参加し、使用電力を100%再生可能エネルギーに 転換する意思と行動を示しています。
業界団体への参画および賛同は、当社の事業目的や注力分野、事業活動との整合性を考慮し、業界団体と当社の考えが大きく矛盾していないか定期的に精査し、乖離が大きい場合には脱退も検討します。